午前6時、夜明けとともにR.C.S第4戦TAMAラウンド『よみうりランド』大会が開始される。よみうりランドのプールエリアに隣接する特設会場に、本日のコースを設営。
この時点ではまったくの無風状態だったので、第3戦と同様にパイロンにブルーのネットを被せてのコースが完成。穏やかな、春の陽射しが優しい多摩丘陵の朝だった。
「今日は穏やかな天気のまま、いきそうだね」
「第3戦の相模湖では、突風に悩まされたけど、きょうは大丈夫そうだ」
といった会話の舌の根が乾かないうちに、なぜか今回も怪し気な風が多摩丘陵の上を旋回しはじめる。
イヤな予感はまたしても大当たり! 3歳クラスがはじまった頃には、パイロンに被せていたブルーネットが飛ばされていく。前回に引き続き、またしても風とスタッフとの壮絶なバトルが開始された。
大きなアクシデントが起こったのは、OPENクラスの予選1組だった。各選手が複合鋭角コーナーを立ち上がり、150°角コーナーからいよいよ50メートル直線のデッドヒートが開始された直後のことだった。横殴りの突風が、先頭を走っていた二人の選手を襲ったのだ。
突風はパイロンも巻き込みながら、選手たちの進路を塞いだのである。先頭の両選手はそのパイロンに引っかかり、もんどりうって転倒。気丈にもすぐに立ち上がってランバイクにまたがったものの、後からきた選手たちの後塵を拝することとなり、下位のまま無念のゴール。
すぐ脇で状況を見ていた観客から、すぐに審議の要請が入った。それを受けた大会スタッフが集合し、緊急会議が開かれる。合議の後、再レースの即断! 選手たちの肉体的、精神的ダメージの回復を待って、再レースは5歳クラス敗者復活2組と3組の間に組み入れることとなった。
昨今、種々の競技における審判疑惑が取りざたされている中、この運営側の即時適切な処置に対し、
「大相撲の『物言い』の採用だね。これは厳正で良いジャッジだ」
と、審議要請の観客からも賛辞の声があがる。
そして何より、レース観戦者の方々による適切な指摘とご協力で、大会の公正中立性が守られたことをここであらためてお礼申し上げたい。R.C.S大会も4戦を終えたところで、参加される皆さんの、皆さんによる大会に発展した証左であることを痛感させられた一幕だった。
【コース紹介】
全体的に細長い会場は、必然的に直線の多いコース設定となった。
スタートから東へ向かって約60mのストレート。
その先を右へ160°角に緩くクランクしたあと、
正面の金網フェンスに添って左へ80°角に曲がる。
10m先で左ヘアピンカーブ、さらにひるがえして右へ30°角の連続ターン。
この左から右への切り返しターンが、前半の勝負のポイントとなる。
勝負どころを抜ければ、150°角の緩いコーナーを通過して、
あとは50mほどの直線となる。
2、3歳の敗者復活戦まではイエローラインをゴールとする。
続いて3歳順位決定からのロングコース紹介。
ショートコースのゴールラインのすぐ先に、クランク状のシケインがある。
その先はまた20mほどの直線を走り、そして左へ100°角、
続いて80°角といった複合カーブとなる。
鈴鹿サーキットのスプーンカーブに似たテクニカルコーナーだ。
そして最後の直線約30mで、ゴールとなる。
ゴールへの最後の直線では、ほとんどの選手のアゴが上がっているはず。
ロングコースを駆け抜けてきた足に、相当の乳酸菌がたまっているに違いない。
このハードに仕上がったタフなコースを、最速で制するのは、誰だ!
スタートから他を圧倒した走りを見せたこやましょうた選手が、ヘアピン、右30°角の連続カーブを抜けたときには、完全な独走状態。
バックストレートでは、すでにウイニング・ラン状態。2位のかたよせはると選手に大きな差をつけてゴールイン。
第3戦では思う存分実力が発揮できず11位に甘んじたが、いよいよ本大会から本領発揮。何せ、スタート直後から見せたあの笑顔には、可愛さとともにたっぷりと余裕が詰まっているに違いない。
大きく引き離されたものの、2位にはかたよせはると選手、3位にはのざきひゅうが選手が入る。
スタート直後から飛び出したのは、しばみやいつき選手とむらかみこと選手。連続鋭角カーブを曲がり切ったあたりから、この両選手の一騎打ちの様相を呈してきた。
そして、バックストレート。ここで少し力を温存しようとしたのか、いつき選手の速力が若干落ちる。そこをすかさず突いたこと選手は、クランクの辺りでいつき選手を捉えた。
そして、スプーンの複合コーナーでギアを入れ替えたいつき選手は、こと選手をふたたび抜き返すと、そのままゴールに飛び込む。
優勝はしばみやいつき選手、2位がむらかみこと選手、そして3位にやまのはるひと選手が入った。
そしてこの3選手は偶然にも2009年5月生まれなのだが、次の第5戦の開催日は5月12日。残念ながら三人のうち二人は誕生日を終えているので、4歳クラスにステップアップ。これが3歳クラスの最終戦となってしまったが、この3名対決はクラスアップした後も長く続いていきそうだ。
とにかくこのクラスの熱気は、半端じゃない。というのも、今や誰もが4歳児最強と認めるかわさきしんたろう選手が君臨しているからだ。今回も「打倒!しんたろう選手」を合言葉に東海、関西からも強豪が乗り込んできた。
とくに力が入っていたのは、愛知県のわたなべいちろ選手。同日に開催されていた東海地区でのレースを見送って乗り込んできたのだ。
いちろ選手は2008年4月生まれで、次の大会では必然的に5歳クラスにステップアップする。4歳最後のレースとして、宿敵しんたろう選手に一矢報いる思いは、まさに炎と化していた。予想通り、決勝はこの両選手のバトルとなった。
スタートを決めたのはいちろ選手だった。第一コーナーでトップをキープするはずだったが、さすがレース巧者のしんたろう選手。みごとにいちろ選手を制し、その後は複合鋭角コーナーをトップで抜けてバックストレートへ。
噂どおりの驚異的なしんたろう選手のスピードは、その後も他の選手の追撃を許さずにゴール。唯一、最後まで王者を視界にとらえていたのは、いちろ選手。「東海、関西の雄」の面目を躍如!3位には接戦を制したふるばやししょうま選手、4位にいとうはやと選手が入る。
そして、面白い現象が起こった。前回の記事の予見が、現実に起こりはじめてきたのだ。第5位=たかしまこうしろう選手、第6位=たかひらりいち選手 第7位=あおきななと選手 第8位=みやうちたすく選手と、5~8位まで2009年早生まれ組の台頭である。まだ、第4戦が終わったばかり。シリーズタイトル争いは、これからが本番となる。
優勝は終始圧倒する速さを見せたしげむらしせ選手が見事、射止めた。
悔し泣きでゴールしたもりやまゆうき選手も、堂々の準優勝に輝いている。
泣くな、ゆうき選手。大事なのは、次の大会だ。
そこで、思う存分の力を発揮すれば良い。
対照的に終始、笑顔を絶やさなかったもとはしちから選手は、第3位の栄誉を得た。
「次のYOKOHAMAラウンドも頑張ります。その次、富士スピードウェイも、優勝します」
しせ選手のウィニングスピーチだ。もちろん、しせ選手は次戦YOKOHAMAラウンド、第6戦富士スピードウェイではクラスアップのOPENクラス参戦となる。当然、そのクラスでの勝利を睨んでの発言と受け取った。
2位のゆうき選手、3位のちから選手からの無言の挑戦状は、ステージを変えて受けると言う含みを残したしせ選手の宣言だった。
スタートから一気に飛び出したのは、しばたりく選手。第3戦からのエントリーで、前回は準優勝の27ptを獲得している。その時の優勝がとべはやと選手だった。今大会では明らかに、雪辱を期している走りである。
その意気込みは複合カーブを抜けてさらに加速し、2番手を走るおぎのひろゆき選手に5mほどの差をつけていった。3番手でコーナーを立ち上がったのは、ふじもとこうき選手。
この3選手の勢いは、バックストレートから複合スプーンカーブを回り、ゴール前のストレートまでほぼ同じ間隔で続いた。優勝は前大会の雪辱を見事果たしたしばたりく選手、準優勝はおぎのひろゆき選手、第3位にふじもとこうき選手が入った。
このクラスは突発的なハプニングが起き、表彰された選手も、また着外に沈んだ選手も、みんなが複雑な思いを抱えた結果になってしまった。
「あの突風さえなかったら!」と、誰もが思ったことだろう。しかし、気象で起こるハプニングは、誰の所為でもない。
言えることはあの瞬間、ゴールを目指してみんなが真剣に走っていた、ということだ。転んでもすぐに立ち上がり、レースを再開していく不屈の心。選手たちはランバイクの試合を重ねるごとに、そうした真の強さを身につけていたのだ。
そのことに自信をもって、胸を張って良い。それが何よりも尊いことであり、また何よりも大切なことではないだろうか。
そしてこのレースで、またひと回り大きくなった選手の姿を、われわれは確認する。
しばのあかり選手である。
あかり選手はR.C.Sの第1戦からエントリーし、2位、3位、そして第3戦こそ6位に甘んじたが着実に19ptをゲット。これまでのトータル71ptは、とべはやと選手に次いで2位にランクしている実力者なのだ。
ところが今大会の決勝で、あかり選手はスタート早々に転倒したのだ。痛み、悔しさ、そして悲しさが一気に襲い、あかり選手の気持ちは萎えかけようとしていた。
そこに、観戦者たちの応援の声と拍手が響いた。するとその励ましで、あかり選手の身も心も蘇ろうとしはじめたのである。
スタート直後からゴールまで、その道のりは長い。あかり選手は全長約240mを、嗚咽を堪えながらランバイクを駆った。そして、ゴールが見えた瞬間、ふたたび切れそうになったあかり選手の心の糸を繋ぎ止めたのは、お母さんの優しい笑顔であり、お父さんの頼もしい励ましの言葉であり、そしてすでにレースを終えている弟の並走であった。
ゴール直前、そこにいる総ての人々が、あかり選手に拍手を送った。それは強く、優しい心が、いま新たに誕生したことを祝うR.C.S流の儀式でもあった。
恐るべきライディング・テクニックの話
その選手の挙動を観ていた二人のカメラマンと記者が、
「エッ、本当?」
と、思わず声を上げた。それほど衝撃的なライディング・テクニックだったのである。
場所は複合鋭角コーナーの出口であった。トップの選手が見せた技に、三人の大人が我が目を疑った瞬間である。
ヘアピンカーブを立ち上がって次の鋭角右カーブに入るとき、セオリー通りならスローイン・ファーストアウトになる。そして軌道はアウト・イン・アウトだ。
ところがこのような教科書通りの走りでは、最後でアウトに膨らんでしまって後続にインを突かれ、先行を許しやすい。
この選手が見せたテクニックは、速度を落とさずカーブに侵入し、一気にハンドルをイン側に切り込む。その瞬間、沈んだ前輪を軸にして後輪を外側にスライドさせるのだ。そして車体の向きが定まったら、一気に両足で地面を蹴り上げて突進して行く。言葉で表現するならクイックイン・クイックターン、そしてファーストアウトといったところか。
じつはこれは、ラリードライビングでタック・インと呼ばれるプロのテクニックと同じ原理なのだ。しかも、前輪駆動車(FF)でしかできないクイックターン技術なのである。
それを2輪のランバイクで、しかも4歳児が見せたのだから、見ていた大人たちもしばらくは空いた口が塞がらなかった。
「偶然かな」
と、三者三様に呟きながら、大人たちはいったんはその場を離れたのだった。ところがしばらくして、両角プロカメラマンが記者に伝えにきた言葉に、さらに驚かされたのである。
「偶然のできごとかと思ったのですが、その後も数人の選手が似たようなテクニックに挑戦しているフシが見えるんですよ。これは技術的にも、相当のレベルにいっているのかもしれませんよ」
三人の男たちは思わず、現役の国際A級プロライダー・関口太郎選手の座っている本部テントを見遣るのだった。